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東北の球児たちは甲子園優勝の壁に何度も跳ね返されてきた

「青春って、凄く密なので」

 昨夏甲子園。東北勢初制覇を成し遂げた仙台育英・須江航監督が優勝インタビューで話した言葉は、新語・流行語大賞の特別賞に選ばれるなど、一躍社会現象に。コロナ禍を過ごす日本人の胸に深く突き刺さった。

 佐々木主浩、斎藤隆に始まり、菊池雄星、大谷翔平、そして佐々木郎希…。近年、東北地方からプロやメジャーリーグを代表する選手が続々と登場している。実力も実績も兼ね備えた選手を輩出してきたが、どういうわけか、昨夏まで甲子園の頂点に立ったチームは一校もなかった。

 センバツは紫紺の大優勝旗、夏の選手権は深紅の大優勝旗。みちのくの兵(つわもの)たちが、この2本の大旗を持ち帰ることを夢見てきたが、奥州三古関の一つに数えられる「白河の関」に、その行く手を頑なに阻まれてきた。

 東北地方は豪雪地帯が多く、冬から春にかけてグラウンドが使用できなくなり、実戦が不足するハンデがある。しかし今では、広大な室内練習場を所有していたり、春先に暖かい地方で合宿、練習試合などを行う強豪校も少なくない。2004年(平成16年)、2005年(平成17年)には田中将大のいた北海道の駒大苫小牧が夏の甲子園連覇を達成。深紅の大優勝旗は、「白河の関」より先に「津軽海峡」を越えた。

 「白河の関」を超えそうな時は何度もあった。その挑戦は1915年(大正4年)、全10校が出場した夏の第1回大会から始まる。当時はまだ甲子園球場がなく、大阪府豊中市の豊中グラウンドで開催。秋田中(秋田)が決勝で京都二中(京都)と対戦し、延長13回に及ぶ激闘の末、1-2でサヨナラ負けを喫した。

 次に決勝へ駒を進めたのは1969年夏(昭和44年)。三沢(青森)が松山商(愛媛)と死闘を演じた。三沢の太田幸司と松山商の井上明の壮絶な投げ合いで両校無得点のまま延長18回、0-0で決着がつかず再試合に。太田は翌日も一人で投げ抜き、最後は2-4で力尽きたが、その伝説は色あせることなく、今へと語り継がれている。

 1971年夏(昭和46年)には磐城(福島)が決勝に進出し、白河越えに挑戦。身長1メートル65センチの「小さな大投手」田村隆寿が桐蔭学園(神奈川)打線と相対したが、0-1で惜敗。田村は大会で唯一許した失点が命取りとなった。

 平成に入ってからは仙台育英(宮城)が東北の主役に躍り出た。1989年夏(平成元年)、エースの大越基が準々決勝で大会注目のスラッガー元木大介(大阪・上宮)を封じ込め10-2と圧勝。その勢いのまま進んだ決勝で帝京(東東京)に延長10回、0-2で敗れはしたが、杜の都は「ライオン軍団」の活躍に湧き上がった。

 2001年春(平成13年)に東北勢初のセンバツ決勝にも進出しているが、常総学院(茨城)に6-7とあと一歩及ばず。2015年夏(平成27年)には佐藤世那、平沢大河らタレントを擁し決勝進出。佐々木順一朗監督(当時、現福島・学法石川監督)が「もう一つ勝つといろんなことが変わる」と臨んだ大一番だったが、小笠原慎之介、吉田凌の2枚看板率いる東海大相模(神奈川)に6-10とあと一歩及ばなかった。

 東北(宮城)のダルビッシュ有も2003年夏(平成15年)、深紅の大優勝旗獲りに挑んだが、常総学院に2-4で敗戦。2年生だったダルビッシュは試合後に大粒の涙を流した。2009年センバツ(平成21年)では花巻東(岩手)の菊池雄星が、清峰(長崎)の今村猛と投げ合いの末、0-1で惜敗。長崎県勢は東北勢より先に春夏初優勝を達成した。

 光星学院(現八戸学院光星)は2年間で3度チャンスが訪れた。2011年夏(平成23年)決勝、日大三(西東京)に0-11で大敗こそしたが、2年生の田村龍弘、北條史也を中核に据えた打線は破壊力満点。翌年へ期待を感じずにはいられなかった。

 しかし翌2012年(平成24年)、藤浪晋太郎、森友哉らを擁する大阪桐蔭(大阪)がまるで「白河の関」のように立ちはだかった。センバツ決勝、夏決勝と2季連続で対戦。いずれも3-7、0-3で退けられたが、史上初の3季連続準優勝は、近未来でそう破られることのない記録といっていいだろう。

 2018年夏(平成30年)、金足農(秋田)の前にも大阪桐蔭がそびえ立った。第100回の記念大会で、第1回の秋田中以来となる県勢決勝進出に大いに盛り上がったが、それまでの5試合で完投していたエースの吉田輝星にもう余力は残っておらず、2-13と大敗した。それでも私立全盛の時代に、公立の「金農旋風」は人々の心に強く残った。

 そして2022年夏(令和4年)。仙台育英が東北勢春夏通算13度目の決勝進出にして下関国際(山口)を8-1で下し、深紅の大優勝旗を手中に収めた。みちのく球児たちがが紫紺の大優勝旗を手にする日も、そう遠くはないだろう。

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